取材:2026年9月7日
私が介護の仕事を目指すきっかけになったのは、40代の頃、妻が大きな病気をしたことです。長い闘病生活の中で入退院を繰り返し、家に戻ってきた妻の介助を、当時中学1年生と小学5年生だった子どもたちと一緒にすることになりました。オムツ交換や着替え、入浴など、寝たきりの人を介助するのは想像以上に大変でした。何もできずに戸惑っている私を見て、子どもが泣いていたことを今でも覚えています。
それまで私は仕事一筋で、家事はほとんど妻に任せきりでした。妻がいなくなったことで、食事や掃除、子どもの弁当まで、自分でやらなければならなくなった。家族3人で役割分担をしながら、何とか生活していました。その経験を通して、家族の介護を支えることの大変さや、介護の仕事の重要性を初めて実感したんです。
その後、子どもたちが成長して独立したことを機に、38年間勤めた大手飲料食品メーカーを退職しました。安定した仕事でしたし、子どもたちからも「なぜ辞めるの」と反対されました。それでも、私は昔から新しいことに挑戦するのが好きでした。これからの人生を考えたとき、今までとは違う仕事に挑戦したいと思ったんです。転職先を探す中でハローワークを通じて出会ったのが、現在の職場でした。
介護の資格はゼロからのスタートでしたが、入職後に実務者研修を受け、介護福祉士の資格取得も目指しています。さらに、その先にはケアマネジャーの資格も見据えています。私にとって、今がゴールではありません。年齢に関係なく挑戦できるのが、この仕事の魅力の一つだと思っています。
現在は所長という立場ですが、机に座って指示を出すだけにはしたくありません。トイレ介助や入浴、着替え、送迎など、今でも現場に入ります。利用者さん一人ひとりと実際に接しなければ、その方の状態や変化は分からないからです。ご家族とも必ずお話しして、その日の様子を伝えるようにしています。
そんな介護の仕事で何よりうれしいのは、利用者さんやご家族から「ありがとう」と言っていただけることです。「あんたがおるで来るんやよ」と言ってもらったときは、本当に胸が熱くなります。前職では、自分が関わった仕事の先にいる消費者の声を直接聞く機会はほとんどありませんでした。でも今は、一人ひとりと向き合った先に、直接「ありがとう」が返ってくる。その喜びは大きいです。
利用者さんを元気にするには、会話や声かけがとても大切です。そこで、現在の事業所では「ほほえみ学校」という取り組みも始めました。チャイムが鳴ると出席を取り、体育、国語、算数、理科、社会、英語、音楽、家庭科などの授業を行います。難しいことをするのではなく、体操をしたり、歌を歌ったり、お菓子を作ったり、みんなで楽しみながら学ぶ。いくつになっても学ぶこと、誰かと会話することは大切だと思っています。
私自身、異業種で長く仕事をしてきた経験があるからこそ、今までのやり方にとらわれず、もっと良くする方法を考えることができます。スタッフにも、外の世界を知って、自分の引き出しを増やしてほしいと伝えています。利用者さんと家族に選んでもらえる事業所にすること、そして「原田が来たからこの事業所は変わった」と言ってもらえることが、今の私の目標です。
介護は決して楽な仕事ではありません。人の命や健康を預かる責任のある仕事です。でも、人生経験がそのまま生かせる仕事でもあります。私自身、妻の介護を経験するまで、本当の意味でその大切さが分かりませんでした。年齢を重ねたからこそ分かること、これまでの仕事や人生で培った経験だからこそ生かせることが、介護の現場にはたくさんあります。
私もまだまだ挑戦の途中です。利用者さんから「ほほえみ、好きやわ」「あんたがおるで来るんやよ」と言ってもらえることを励みに、これからも現場に立ち、学び、変えることを恐れずに進んでいきたいと思っています。





