あいちdeニューノーマルの選択肢、半農半Xな暮らしガイド ー買うからつくるへー

実践者たち

農家×カフェ[実践者]剛谷夫妻

知多郡南知多町は、知多半島の最南端に位置し、三河湾に離島も有するほか、漁業や観光業が盛んな地域。

豊田市足助地区、豊田市のほぼ中央部に位置し、紅葉の名所「香嵐渓」で知られ、古い宿場町の名残が残る地区
豊田市足助地区、豊田市のほぼ中央部に位置し スマートフォン用
紅葉の名所「香嵐渓」で知られ、古い宿場町の名残が残る地区。スマートフォン用

剛谷さんの半農半Xのヒストリー

1970年埼玉出身、1991年看護師として業務につく、2007年子供出産する、2011年静岡三島にて農業研修につく、2012年南知多町に移住、2012年ハーブ農園リッコスタート[看護アルバイトも]、2016年観光ハーブ農園スタート、2018年リッコカフェオープン[看護職は退職]、2019年観光農園移転
1970年埼玉出身、1991年看護師として業務につく、2007年子供出産する、2011年静岡三島にて農業研修につく、2012年南知多町に移住 スマートフォン用
2012年ハーブ農園リッコスタート[看護アルバイトも]、2016年観光ハーブ農園スタート、2018年リッコカフェオープン[看護職は退職]、2019年観光農園移転 スマートフォン用

半農半Xの一年

畑の整備:1月〜12月、ハーブ収穫:3月下旬〜12月中旬、農産物の販売:1月〜12月、リッコカフェ営業(月・火曜日休日):1月〜12月
半農半Xの収入 比率、農業:50%・カフェ:50%
剛谷夫妻のイメージ動画はこちら
剛谷夫妻の人柄が垣間見られる、ショート動画がご覧になれます。ぜひご覧くださいね。
※「愛知県農業水産局農政部農政課YouTube」運用方針 [PDF/43KB]

最寄りの施設

中学校車で10分、こども園車で10分、コンビニ車で3分、飲食店車で3分、食料品車で3分、救急医療車で10分、衣料店車で20分、小学校車で10分、高校車で15分、美容床屋車で20分、職場車で10分、薬局車で10分、郵便局車で3分、ガソリンスタンド車で10分
中学校車で10分、こども園車で10分、コンビニ車で3分 スマートフォン用
飲食店車で3分、食料品車で3分、救急医療車で10分 スマートフォン用
衣料店車で20分、小学校車で10分、高校車で15分 スマートフォン用
美容床屋車で20分、職場車で10分、薬局車で10分 スマートフォン用
郵便局車で3分、ガソリンスタンド車で10分 スマートフォン用

役に立った行政などの支援策

book

行動派と慎重派のふたりだったからできた。小さく始めて大事に育てるハーブ農園とカフェ

知多半島の先端。山間の集落にある一軒の民家を訪ねた。朱色の瓦が屋根に乗った中庭のある大きな家。案内されて部屋に入ってみると外観との違いに驚いた。まず目に飛び込んでくるのが、天井から吊り下げられている紫や黄色のドライフラワー。壁、天井、床、どこを見ても白く塗られている。 よく目を凝らして見てみると、奥にある飾り棚が設置されているのはどうやら押入れのようだ。 「よかったら、セルフですけどお茶飲んでください。効能の説明書きがあるので、好きなのを選んで」と促され、『エキナセア』というハーブの入ったものを選んだ。免疫力をアップさせると書いてある。クセのない、すっきりとした味がする。 この家でリッコカフェ&ガーデンを営む剛谷哲司さん、久美さんご夫婦。『Ricco』とはイタリア語で『豊』という意味を持つ。 「まずは小さくやって、それが順調にいけば、広げていけばいいだけのことなんだと思いますよ」と、話す哲司さん。最初はハーブ農家としてハーブティーを売っていた。お客さんに畑が見たいと言われ観光農園をオープン、その後、ハーブを使って何かやってみたいという声を聞き、ハーブやリース作り体験を提供するようになった。古民家を改修してカフェも始めた。ミニチュアホースも飼っている。 「花があって、ハーブがあって、生き物と触れ合える。リッコは、大人の女性が癒される場をイメージしてやっています。」と久美さん。お客さんのリクエストと自分たちのやりたいことを上手く重ね、夫婦二人三脚で農のある日々を楽しむお二人に話を聞いた。

剛谷夫妻とカフェの店内の写真
カフェの店内の写真
剛谷夫妻(奥様) スマートフォン用
剛谷夫妻(旦那様) スマートフォン用
あしらい

マレーシアで決めた帰国後のハーブ部栽培

若い頃の久美さんと子供、哲司さんの写真

ハーブに興味を持ったのは、哲司さんの仕事でマレーシアに滞在していた時のことだった。当時3歳だったお子さんが風邪を引いた。病院でもらった薬を飲んでもすっきり治らない。近所にあったお店で「ちょっとした風邪ならハーブティーを飲ませておくといいよ」とアドバイスされた。哲司さんは、興味を持ちハーブでの就農を考えるようになった。 「充実した第二の人生を歩む人たちを取り上げた『人生の楽園』という番組を当時見ていて、憧れる気持ちがあった」と言う哲司さん。海外での工場勤務から農の道への転身に躊躇はなかった。看護師の資格を持つ久美さんは、ハーブが代替医療として使われることに興味を持った。 「子どもが薬を飲みきって、あとは免疫力を上げるようなことが必要だと思っていたので、『あ、ハーブか』と思いました。マレーシアではハーブの他にも、中医学のクリニックがあったり、アーユルヴェーダのお店があったり。中華系の方が、喉が痛い時にペットボトルに入った『菊茶』を飲んだりするのを見ていておもしろいと感じていました。生活に代替医療が根付いている印象でした」 哲司さんが農業をやると言い出したことについては「周りに農業をやっている知り合いはおらず、「ぼんやりとしたイメージしかなかったから飛び込めたんじゃないかな」と振り返る。 修行のために雇ってほしい。何十件も連絡して受け入れてくれたのが静岡県三島市のハーブ農園だった。1年間の修行では、何を教わったのだろう。 「とにかく1年間草取りばっかりでした(笑)無農薬で栽培しているので、やることといったら朝から晩まで草取り」と哲司さん。 「こちらで同じように無農薬でやるようになって、その経験が良かったのだとわかりました。栽培は、地域で土や気候が変わるので、習ったことをそのままというわけにはいかない。一番大事でやらなければならないことは、草刈り。体力と根気が修行の1年で培われたと感じています」 久美さんも一緒に働き、草取りの他、ハーブの収穫や袋詰めを覚えた。

あしらい

ハーブ農家から始め、少しずつやりたいことを実現

カフェの店内の写真

哲司さんは、美浜町に住む昔からの友人に、農園を始める場所について相談していた。 「こっちの方に移り住むのはどうだと言われて調べてみると、南知多町の土壌には頁岩(けつがん)という石が含まれていて水はけが良く、ハーブに向いている土壌だとわかりました。僕の出身地、名古屋にも近いし、気候が温暖なのが良いなと。寒いのは苦手なので」 2012年に南知多町に移住した。最初は雑木の生える土地で苦労したが、次に貸してもらった土地では上手く栽培できるようになった。ハーブ農家としてハーブティーを販売し、2016年には町内の豊丘に観光農園をオープン。農園を散策しながら、気に入ったハーブをカットして、その場でスワッグやリースを作る体験はお客さんに好評を得た。 最初の住まいは、「役場の空き家バンクですぐ見つかるだろうと思ったのですが、当時は登録物件がなくて自分たちで探すことにしました」と久美さん。 車で出かけては、目についた空き家の近所の人に聞いて見つけることができた。 その後、子どもが成長するにつれて手狭に感じられるようになり、新たに家探しを始めた。 移住した村の知り合いの方の実家が10年以上空き家で、そこを貸してもらえることになった。物件は築70年ほどの家。久美さんは、建屋が『コの字型』になっていて中庭があり、広いのが気に入った。

屋根に太い梁のある部屋を、白く塗り替え、装飾を施した。室内のインテリアデザインは、哲司さんのセンスで選んだという。2018年3月、以前からやってみたかったカフェをオープンした。市街化調整区域にあるため、飲食店開業の許可を得るのに苦労したが無事申請が認められた。カフェオープンに伴い、豊丘の観光農園は閉め、2020年にカフェ横にハーブガーデンを開いた。 「スワッグとリース作りの体験は、以前は、フレッシュハーブでやっていたので冬場はお休みしていました。現在は収穫してドライフラワーにしたものを使っているので、1年を通してやっていただけるようになりました。教室ではなくて、あくまで体験。お客さんの好きなように楽しく作ってもらうことを大事にしています」と久美さんは話す。

あしらい

それぞれの得意分野で役割分担

ハーブとランチの写真

ハーブティー用に、レモングラス、レモンバーム、レモンタイム、エキナセア、スペアミント、アップルミント、ローズマリーなど10種類を栽培。スワッグやリースに使う、ハーブでない植物を含めて100種類ほどを栽培している。 「基本は多くが多年草なので、枯れた時期に剪定をしておけば次の春に芽が出てきます。でもカモミールなど一年草のものは育苗箱で種から育てるものもあります」と哲司さん。 植え付けと収穫を繰り返す野菜と比べて、多年草のハーブは植えたままで良く、収穫の時期もそこまでシビアに設定しなくて良い。けれど苦労もある。やはり草取りだ。 「野菜なら収穫後、トラクターで耕して雑草が生えにくい畑を作れる。でもハーブの場合はずっとそこにあるので、当然雑草は生えてきちゃいます。根っこの方は機械が使えないので、ほぼ手で草取りすることになります」 冬場は余裕があるが、春夏はとても忙しい。夫婦で役割を分担し、上手くやっている。 「草取りや収穫などが始まると、僕は早朝に畑に行って、女房はカフェの準備をやります。スワッグやリースの体験があれば10時には店を手伝いに行きます。ランチの食事は、僕がメインで作ります。昼からも体験があれば店にいたり、そうでなければ畑に戻ったりと臨機応変にやります」 休みの日にもハーブティー作りの作業を2人でやっている。 「収穫したものを裁断して、洗って、乾燥します。ティーパックへの加工は外注しているのですが、それが戻ってくると袋詰めをします」と久美さん。 忙しい日々。あまり無理した運営にならないよう、工夫している。例えばランチの提供。メインメニューはガレットというフランスの郷土料理。丸く焼いたそば粉の生地に卵やハムを包んだものにスープやサラダが添えられたプレートランチと、デザートガレットの2種類をオープンからの4年間続けて出している。

「ワンプレートにすれば行き来しなくて済むし、メニューが限られていることで食材の無駄を抑えることができます。副菜やスープ、デザートを季節で変えることで工夫しています」と久美さんが説明し、 「メニューが変わらない方が、あれがまた食べたいと思って来てもらうためにはいいと思っています」と哲司さんが加えた。 『ガレット』というメニューにはこだわりがある。 「ちょうどカフェのオープニングを控えていた時期に、近所で蕎麦を栽培している年配の方たちがイベントでガレットを焼くワークショップをやっていました。昔、東京で食べた時、美味しかったなあと思い出して。ガレットやってみようと思い立ちました」と久美さん。 カフェの雰囲気に合う食事を出したかった。白を基調としたカフェスペースにドライフラワーがある。フランスの食べ物がいいのではないかという想いにも、ガレットはピッタリあった。 簡単にできるだろうと思っていたが、難しかった。近所でガレットを焼いていた男性にどんな調理道具を使ったら良いか聞いてみたり、インターネットで薄く焼くための方法を調べ、動画を見たりした。オープン前には何百枚も焼いて練習したという。

あしらい

癒しの馬を増やしたい

馬の写真

「やりたいことをやっているから楽しい」と言うお二人。馬を飼うことも、やりたいことの一つだった。まるで子どものように可愛がっているのが、ミニチュアホースのサニー。 「結構なついてくれている」と表情を和らげる哲司さん。馬を飼うことはハードルが高いことだと思っていたが、動物を取り上げたテレビ番組で見て「こんな小さい馬もいるんだ」と知り、調べ始めた。大阪府のワールド牧場で購入できることを知り、そこから連れてきたのがサニーだ。取材後、ハーブガーデンに移動し、サニーにセロリをあげる体験をさせてもらった。大人しく、のんびりした様子がとても可愛い。 「馬は癒しの動物。可愛くって、もっと増やしたいなと。小さい馬が何頭かいるようなふれあい牧場のようなことが、将来的にやれたらいいなと思っています」と久美さんは望んでいる。

あしらい

行動派と慎重派のふたりだったから

剛谷夫妻の笑顔の写真

お二人のように農業と他の仕事を組み合わせた暮らし方をしてみたい方へのアドバイスを聞いてみた。 まず口を開いたのは哲司さん。 「例えばお店をやっている人なら、そこで使う野菜を自分で作るために農業を始めてみる。農業をやっている人であれば、お店を初めてみてもいい。小さくスタートしてみればいいと思います。年配の人の中には「農業は生半可な気持ちでやるな」と言う方もいるけれど、いいじゃないですか、生半可でも(笑)」 「土に触れたり、緑を目にしたり、そういうことを人間は本能的に求めてると思います。私も10年やってきて、土に触り、そこに畑があるだけで癒される実感があります。農業でリフレッシュすれば、別の仕事に活かせる感性が磨かれたりするんじゃないかな」と久美さん。

海外での工場勤務から、未経験の農の世界に飛び込んだこと。空き家を自力で改修し、カフェオープンしたこと。ガレットを作ろう!と思いたち練習を続け習得したこと。夢だと思っていた馬を飼っていること。お二人の歩みを見ていると、「やりたい!」を原動力にとにかく前に進み続けているという印象を受ける。 行動派の哲司さん、慎重派の久美さん。2人でやってきたからこそ今の姿があるとわかる話が最後に聞けた。 「あんまり深く考えると、考えて、考えて、結局怖くなってやめちゃう人がいる。できない理由を集めて、やめてしまうならスタートできない。考えてもわかるはずない。考えるのは50%くらいでいいと思うよ」 「私はどちらかと言うと、悪いシナリオを思い浮かべて、完璧に習得しないと始められないタイプ。この人がとりあえず走り出しちゃう、やりながら学ぶスタイルなので、引きずられてストレスなこともあります(笑)」 二人で石橋を叩いているばかりで渡れなかったら今の生き方にはなっていなかった。でも、二人とも『どんどん行こう!』というタイプだったら失敗していたかもしれない。久美さんの慎重さもあって、バランスが取れている。 「毎日顔を合わせて、俺のリフレッシュタイムはどこにいった?(笑)我慢の日々です」、「私だって我慢してるわ」と言葉だけ見れば、お互いに厳しいように思えるが、それを発する笑った顔、雰囲気からは二人で働くことの充実感があふれている。