ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
現在地 ホーム > 分類からさがす > しごと・産業 > 愛知のものづくり > 産業・科学技術 > 「知の拠点あいち」重点研究プロジェクトにおいて、「呼吸による胸の動きを計測できる衣服」を開発しました!

本文

「知の拠点あいち」重点研究プロジェクトにおいて、「呼吸による胸の動きを計測できる衣服」を開発しました!

ページID:0059082 掲載日:2013年3月13日更新 印刷ページ表示

平成25年3月13日(水曜日)発表

- 呼吸機能の管理や運動時のモニタリングへの応用が期待されます -

  「知の拠点あいち」重点研究プロジェクト※1の「超早期診断技術開発プロジェクト」において、あいち産業科学技術総合センター尾張繊維技術センター、名古屋大学大学院情報科学研究科間瀬健二(ませけんじ)教授、株式会社槌屋(つちや)※2の3者は、織物を押したり伸ばしたりした時の変化を高感度に測定できる「センサ機能を有する織物」の共同研究開発を進めております。

 このたび、上記のメンバーに名古屋大学大学院医学系研究科病態解析学講座川部勤(かわべつとむ)教授が加わり、衣服そのものにセンサ機能を持たせた新しい形態の呼吸状態を把握できるシステムを開発しました。開発品は、通常の衣服と同様に布でできているので、日常生活の中で違和感なく着用でき、日常の活動中における呼吸による胸の動きを計測できます。呼吸機能の管理や運動時のモニタリングなどへの展開が期待されています。

 この研究開発では、尾張繊維技術センターが衣服の開発、(株)槌屋が電子回路や装置全体の開発、間瀬研究室がソフトウェアの開発、そして、川部勤教授が呼吸器内科専門医として健康増進や医療の上での必要性をもとに機器開発の提案をするとともに呼吸量測定の指導を担当しました。 

1 開発品の概要

(1)背景

 ヒトの疾患リスクを予知するには、従来の病院の検査や定期集団検診に加え、日常生活での生体情報のモニタリングが重要です。そのため、日常的にデータ取得ができる検査項目を抽出し、これを日常生活の中で測定できる新しいデバイスを開発することが求められています。

(2)開発品

 本開発品は、衣類や寝装品などに使われている布素材に、生体情報をセンシングする機能や、データ信号を伝達する機能などを付与して、ヒトの体勢、動き、振動などの情報をサーバに送信し、日常的に生体情報をモニタリングできるもので、この研究の1つとして、呼吸による胸の動きを計測できる衣服を共同開発しました。

(3)従来技術

 一般に、呼吸機能についてはスパイロメータ※3を用いて、日常生活における機能障害の重症度については6分間歩行テスト※4を用いて評価します。スパイロメータは口から出入りする空気の量を測定する装置で、病院や検診会場など限定された場所で使われています。そのため、日常生活の中で検査したり、運動中に検査することが困難でした。また、現行の6分間歩行テストは単に歩くことのできた距離を測定するだけのもので、歩行中の呼吸機能の状態については全く評価できておりません。

(4)効果

 今回、発表する衣服は、伸縮したことを検知できる布を新たに開発し、これを衣服に内蔵して呼吸による胸の動きを計測可能にしたものです。スパイロメータのように計測用のマウスピースやマスクを装着する必要がないかわりに、大まかではありますが、手軽に呼吸状態を把握できる特徴があります。また、通常の衣服と同等の柔らかさであるため、日常生活の中でも違和感なく着用できます。

2 開発品の詳細

  伸縮したことを検知できる布のしくみは次のとおりです。

(1)構造

  たて糸に導電性繊維、よこ糸にストレッチ糸を使用して布を織りました。この布は、よこ方向に伸びたとき、導電性繊維の間隔が広がります。このとき、導電性繊維間の静電容量※5を測定することで、導電性繊維間の距離を推定でき、布の伸縮を検知することができます。

(2)活用方法

 この布をベストの胸部と腹部の2カ所に装着し、呼吸に伴う胸囲、腹囲の変動を測定します。これは胸式呼吸と腹式呼吸の両方を検知するためです。

 さらに、呼吸に関係する肺や横隔膜の複雑な動きを単純な三次元モデルに置き換えることにより、2カ所に装着した布それぞれの伸縮量から呼吸量を推定する計算手法を考案しました。布から得られる電気信号は無線で携帯端末などに送信し、呼吸量を計算するソフトウェアで処理し、記録できます。【特許出願中】

 開発した衣服は着用するだけで呼吸状態を把握することができ、どこでも使用できる特徴があります。

(3)用途

 この特徴を活かした用途としては、日常生活における呼吸状態のチェック、運動中の呼吸のリアルタイムなモニタリングなどが考えられています。

 今後、臨床実験を進めていき、データ検証を重ね、商品化を目指しています。

図1 伸縮を検知できる布

図1 伸縮を検知できる布

図2 開発品(ベストに仕立てたもの)

図2 開発品(ベストに仕立てたもの)

図3 伸縮を検知できる布(脇の白い部分)

図3 伸縮を検知できる布(脇の白い部分)

図4 計測例

図4 計測例(実線はスパイロメータを用いた計測値、破線は開発品を用いた計測値を表す。両者がほぼ一致していることから、開発品により呼吸状態を把握できることがわかる。)                     

3 用語説明

※1 「知の拠点あいち」重点研究プロジェクト

 「知の拠点あいち」は、付加価値の高いモノづくりを支援する研究開発拠点として、愛知県が、万博跡地に整備したものです。企業や大学等の研究者が共同研究開発を行う「あいち産業科学技術総合センター」と、原子や分子レベルで高度な計測分析を行う「あいちシンクロトロン光センター」からなります。「知の拠点あいち」重点研究プロジェクトは、大学等のシーズをもとに企業による製品化を図るため、「知の拠点」で行う産学行政連携の共同研究開発のことです。

※2 株式会社槌屋

 自動車部品からOA部品、建材部品のほか、印刷製品からケミカル製品、繊維製品などを幅広く扱う企業。

※3 スパイロメータ

 呼吸機能を検査するための医療機器。気管支喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)、間質性肺炎など、呼吸機能を損ねる疾病の検査に用います。スパイロメータは流量計・マイクロコンピュータ・プリンター・液晶ディスプレイなどを搭載した本体と、マウスピース、チューブから構成されます。健康診断における肺活量の測定を代表として、被検者の呼吸機能を肺に出入りする換気量で測定する検査です。吸気や呼気の容積、呼吸に要した時間は流量計からの出力信号を変換したのちマイクロコンピュータに入力され、演算されます。なお、今回発表する開発品は、換気量そのものを測定するものではないため、わかりやすく、胸の動きと表記しました。

※4 6分間歩行テスト

 6分間に一定の直線コースを往復し歩くことができる距離により持久力を評価するテストです。

※5 静電容量

 導体やコンデンサが電荷を蓄える能力を表す値のことをいいます。一般に2つの導体間の距離が近くなると静電容量は増加します。

問合せ

あいち産業科学技術総合センター尾張繊維技術センター
素材開発室
担当 島上、堀場、池口
ダイヤルイン 0586-45-7871

愛知県産業労働部産業科学技術課
科学技術グループ
担当 中川、榊原(悟)、加藤(英)
内線 3383 3382
ダイヤルイン 052-954-6351