愛知県衛生研究所

エキノコックス症について

2005年9月21日(2014年4月改訂)

エキノコックス症は、エキノコックス(Echinococcus spp.)と呼ばれる寄生虫による疾患です。

国内では、毎年17〜27名*がエキノコックス症患者として報告されています。死亡に至る例もあり、毎年数名が(平成22年:3名、平成23年:4名、平成24年:4名)亡くなっています。

医学上最も重要なエキノコックスは『単包条虫(E. granulosus)』と『多包条虫(E. multilocularis)』です。日本でのエキノコックス症感染報告のほとんどは多包条虫によるものですので、ここでは多包条虫によるエキノコックス症をご紹介します。

*平成15年〜24年の国立感染症研究所 感染症発生動向調査事業年報

ヒトへの感染

ヒトは、多包条虫の虫卵(直径0.03〜0.035 mm)で汚染された水や食物の飲食によって感染します。虫卵は、多包条虫に寄生されているキツネやイヌ等の糞に含まれています。(図1)

多包条虫の感染経路
終宿主(キツネ、イヌ等のイヌ科動物)
包虫を食べると感染する。(例:感染した野ネズミを包虫ごと食べる)
包虫は体内で成虫となり、虫卵を産生する。虫卵は終宿主の糞便に排泄される。
なお、終宿主は虫卵を食べても感染しない。
中間宿主(ネズミ、ヒト、ブタ等の様々な哺乳動物)
虫卵を食べると感染する。虫卵は孵化して、体内で包虫となる。
なお、中間宿主は包虫を食べても感染しない。

ヒトの症状

ヒトが多包条虫に感染すると、多くの場合、多包条虫の包虫が肝臓で増殖します。典型的な症状は以下のとおりとなります。治療しないと死に至ることがあるため、早めの受診が必要です。

  1. 第1期(潜伏期):無症状。(およそ5〜20年)
  2. 第2期(進行期):肝腫大、腹痛、黄疸、肝機能障害などを示す。
  3. 第3期(末期) :全身状態が強く侵され、肝不全などで死亡する。

予防

日本では、北海道において多包条虫が流行しています。北海道への旅行等の際には、特に以下のような注意が必要です。

キツネやイヌ等との接触を避ける
感染したキツネやイヌの体毛には、虫卵が付着しているおそれがあります。なお、北海道でのキツネの感染率は40〜60%、イヌの感染率は1〜3%との報告があります。
川や井戸の水、野山の山菜などをそのまま摂取しない
感染したキツネやイヌの糞便で汚染されている可能性があるので、注意が必要です。

北海道に限らず、本州でも多包条虫に感染している動物(キツネ、イヌ、ブタ等)が発見されています。これらは本州で感染したのではなく、北海道で感染した動物が本州に移動した可能性が高いと考えられていますが、本州においても注意深い行動を心掛けるのが好ましいと思われます。

また飼い犬が感染源となることを防ぐため、イヌの飼い主は、飼い犬が多包条虫に感染しないよう注意が必要です。イヌは、主に多包条虫に感染した野ネズミを食べることで感染します。なお、北海道での野ネズミの感染率は約30%との報告があります。

多包条虫に感染したイヌの糞には虫卵が排出されますが、虫卵は肉眼では確認できず、また通常は感染したイヌが症状を示すことはないので、飼い主が感染に気付くことは困難です。野ネズミを食べた経験がある等、飼い犬がエキノコックスに感染している疑いがある場合には、獣医師に相談しましょう。

感染症法の届出

診断した医師、獣医師は直ちに保健所に届け出てください。
 (全数報告対象の4類感染症)

*届出基準は厚生労働省―感染症・予防接種情報の届出申請関係情報を参照