水道水の安全・安心を求めて
六価クロムの水質基準が改正されました
2020年7月1日
1.六価クロム水質基準値の改正
令和2年(2020年)4月1日から水道水中の六価クロムの水質基準が0.05 mg/L以下から0.02 mg/L以下に改正されました。
私たちが安心して飲める水を供給するため、水道水には「水道法」という法律に基づいた水質基準が定められています。水質基準は昭和33年(1958年)に初めて制定され、その後数回改正されていますが、現在の水質基準値の多くは平成15年(2003年)の水質基準大改正において定められました。その後、最新の科学的知見に照らし、逐次基準項目、基準値が改正されています。
六価クロムのように毒性の高い物質の水質基準値は、人が一生飲み続けても健康に影響がないと考えられる量を基にして決められています。最新の研究報告に基づく見直しによって、今回は六価クロムの水質基準が改正されました。
- 六価クロムの水質基準値
- 0.05 mg/L 強化➡ 0.02 mg/L
2.クロムについて
クロムは主に岩石、土壌、火山灰及びガス中に存在している金属であり、三価クロム及び六価クロムが最も安定した酸化状態と言われています。三価クロムは自然界において様々な食品に含まれていますが、六価クロムは自然界には殆ど存在せず、主に工業的な要因で発生し飲用水などに混入することが知られています1)。
3. クロムの毒性評価
六価クロムは暴露により人に対して肺がんを引き起こし、鼻及び副鼻腔のがんとの関連も認められているため、国際がん研究機関(IARC)は人に対する発がん性の証拠が十分にあるとしています。また、IARCは実験動物に対する発がん性の証拠も十分あるとしており、以上のことから、IARCでは六価クロムをグループ1(ヒトに対する発がん性がある)に分類しています2)。また、三価クロムは、ヒト及び実験動物での発がん性に関しては評価可能な適切な情報はないため、グループ3(ヒトに対する発がん性について分類できない)に分類されています3)。
4. これまでの経緯
昭和33年(1958年)のWHOのInternational Standard for Drinking Waterで六価クロムの健康影響に基づく最大耐容濃度(Maximum allowable concentration)として、0.05 mg/Lが提案されました。平成8年(1996年)にWHOにおいて、この指針値0.05 mg/Lについて再検討がなされましたが、人の吸入暴露により肺がん発生は認められているものの、経口毒性試験では顕著な毒性も腫瘍も認められていないとされ、その後も評価値算出にかかわる新たな毒性情報は報告されていませんでした。
このことから、昭和33年(1958年)に六価クロムの水質基準が0.05 mg/Lとして設定されて以来、クロムの毒性は従来どおり六価のものに着目することが妥当であるとし、健康を著しく害すことは無いと考えられる0.05 mg/Lが水質基準として維持されていました。
5.改正された六価クロム水質基準の決め方
水質基準の基となる毒性の評価は、WHOの飲料水水質ガイドラインや、疫学・毒性に関する文献情報などを収集して行われています。多くの情報から、動物または人に対して影響を与えない最大の量(最大無毒性量)を求め、その量を安全を見込んだ係数(不確実係数:多くの場合100以上)で割って、「人が一生飲み続けても健康に影響がないと考えられる一日の量」とします。これを「耐容一日摂取量(TDI)」といいます。
今回の六価クロムのTDIは、平成30年(2018年)9月18日の内閣府食品安全委員会の答申により、1.1 μg/kg 体重/日と設定されました。具体的には、六価クロムに対し、発がん影響と非発がん影響とを分けずに評価を行い、2 年間飲水投与試験においてみられた雄マウスの十二指腸びまん性上皮過形成に基づき算出したBMDL10値(腫瘍が10%増加する用量)0.11 mg/kg 体重/日を基準点とした後、不確実係数100 を適用した結果からTDI 1.1 μg/kg 体重/日となりました。
水道法における水質基準の評価値は、このTDIを用いて次の式で求められています。
水質基準の評価値 = | TDI×平均体重×水道水の寄与率 |
一日に飲用する水の量 |
日本では、下記の内容をあてはめます。
- 平均体重:50 kg
- 水道水の寄与率:60%
(六価クロム全体の摂取量のうち、水道水から取り込まれる割合:飲料水以外からの摂取がない確かなデータがある場合、WHO や米国環境保護庁(USEPA)で示されている上限の80%となる。六価クロムの飲料水以外からの摂取はないとする確かなデータはないため、60%とするのが適当と考えられる。 )
- 一日に飲用する水の量:2 L
0.0011 mg/kg体重/日×50 kg×0.60(60%) | ≒ 0.02 mg/L |
2 L |
この計算値から、六価クロムの水質基準は0.02 mg/Lと設定されました。
6.参考文献
- 1) EFSA(European Food Safety Authority): Scientific Opinion on the risks to public health related to the presence of chromium in food and drinking water. EFSA Panel on Contaminants in the Food Chain (CONTAM). EFSA Journal 2014; 12: 3595
- 2) IARC: CHROMIUM (VI) COMPOUNDS. 2012
- 3) IARC (1990): IARC Monographs on the Evaluation of the Carcinogenic Risks to Human. Vol. 49.