愛知県衛生研究所

第十八改正日本薬局方について
医薬品の元素不純物に係る規定が設けられました

日本薬局方(以下、「日局」)は、医薬品の性状及び品質の適正を図るため、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下、「薬機法」)第41条第1項の規定に基づき、厚生労働大臣が定める医薬品の規格基準書です。

日局の構成は、通則、生薬総則、製剤総則、一般試験法及び医薬品各条等からなります。日局は1886年(明治19年)の初版以来、薬機法第41条第2項の規定に基づき、少なくとも10年ごとに改正されてきましたが、科学技術の進歩をできるだけ速やかに反映させるために、近年は5年ごとに改正されています。

2021年(令和3年)6月7日に、第十七改正日本薬局方(以下、「日局17」)にかわって新たな第十八改正日本薬局方(以下、「日局18」)が告示され、同日から適用されました。

本稿では、日局18における主な改正点と新たに通則に設けられた医薬品の元素不純物に係る規定について解説します。

日局18における主な改正点

日局18では、「第十八改正日本薬局方作成基本方針」に基づき、医学薬学等の進展に対応するとともに、諸外国における基準との調和を図るため、以下に示した点を中心に改正が行われました。

詳しくは、厚生労働省"「日本薬局方」ホームページ"を参照してください。

日局18における元素不純物に係る規定

医薬品製剤中の元素不純物に係る規定は、国際調和を図るためにガイドライン(平成27年9月30日付審査管理課長通知「医薬品の元素不純物ガイドラインについて」)が発出され、平成29年4月1日以降に承認申請された新医薬品製剤に適用されています。

日局17第2追補では、一般試験法として「2.66 元素不純物試験法」が、参考情報には「製剤中の元素不純物の管理」が新規収載されました。

日局18では、元素不純物に関する通則34が新規収載されています。また、一般試験法「2.66 元素不純物試験法」が、参考情報「製剤中の元素不純物の管理」と統合され、「2.66 元素不純物」と試験法名も改められました。

規制対象となる元素は、人の健康に及ぼす毒性及び製剤中に存在する可能性に応じて3つのクラスに分類され、経口製剤、注射剤及び吸入剤に対して元素不純物の許容一日曝露量(PDE)値が設定されています。

なお、生薬、放射性医薬品、ワクチン、血液製剤等に基づいた製品には適用されません。また、薬理作用を目的として製剤に添加された元素には適用されません。

各クラスの分類

クラス1
ヒトに対する毒性の高い元素で、ヒ素(As)、カドミウム(Cd)、水銀(Hg)及び 鉛(Pb)の4種類です。医薬品の製造において使用が制限されるため、使用されることは希です。これら4種類の元素不純物は、混入する可能性のある起源及び投与経路の全般にわたるリスクアセスメントが必要です。
クラス2
クラス1の元素よりも毒性が低く、投与経路に依存して、ヒトに対する毒性を発現する元素です。製剤中に存在する相対的な可能性に基づいて、更に2A及び2Bに分類されます。
クラス2Aの元素は、天然に存在することが知られているコバルト(Co)、ニッケル(Ni)及びバナジウム(V)です。製剤中に存在する可能性が比較的高いため、混入する可能性のある元素不純物の起源及び投与経路の全般にわたるリスクアセスメントが必要です。
クラス2Bの元素は、銀(Ag)、金(Au)、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、セレン(Se)及びタリウム(Tl)です。天然に存在する可能性が低く、原薬、添加剤又は製剤のその他の構成成分の製造中に意図的に添加されない限り、リスクアセスメントから除外できます。
クラス3
経口投与による毒性が比較的低く、経口剤におけるPDE値が500 μg/dayより高い元素です。クラス3の元素は、バリウム(Ba)、クロム(Cr)、銅(Cu)、リチウム(Li)、モリブデン(Mo)、アンチモン(Sb)及びスズ(Sn)です。意図的に添加されない限り、経口製剤のリスクアセスメントでは考慮する必要がありません。注射剤や吸入剤では、その経路固有のPDE値が500 μg/dayよりも高い場合を除き、意図的添加がない場合にも、これらの元素不純物が混入するリスクを評価すべきです。
クラス1のPDE値(μg/day)
元素経口製剤注射剤吸入剤
カドミウム523
555
ヒ素15152
水銀3031